【開催報告】「日本語教育を通じたDX人材育成」シンポジウム2026
人工知能(AI)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の急速な発展により、企業が求める人材像も大きく変化しています。日本語教育においても、単に日本語能力を高めるだけではなく、日本語を仕事や協働、課題解決のための「ツール」として活用できる人材をどのように育成していくかが、新たな課題となっています。こうした背景のもと、2026年7月23日、株式会社NiX Education(以下、NiX Education)は、国際交流基金ベトナム日本文化交流センターによる「日本語教育機関活動支援小規模助成プログラム」の助成を受け、ダナン大学 越韓情報通信技術大学(VKU)において、「日本語教育を通じたDX人材育成」シンポジウム2026を開催しました。
本シンポジウムは、2025年に開催されたシンポジウムに続く取り組みとして実施され、ベトナム・日本の大学教員、研究者、企業関係者、日本語教育機関など、多様な立場の参加者が一堂に会しました。
当日は、AI・DX時代に求められる人材育成をテーマに、日本語教育の新たな方向性や教育実践、企業が求める人材像について、それぞれの立場から活発な議論が行われました。また、NiX Educationが取り組む教育実践や企業との連携事例が共有され、教育と実務をどのようにつなげていくかについて、多角的な視点から意見交換が行われました。

写真1:主催者・助成団体・講演者・パネリストによる記念撮影

写真2:シンポジウムの様子
教育が今、向き合うべき問い
近年、企業では実務能力や協働する力、そして課題解決能力がこれまで以上に重視されるようになっています。そのような中、外国語教育にも変化が求められています。
日本語学習は、資格取得だけを目的とするものではなく、専門知識を学び、実際のプロジェクトに参加し、卒業後のキャリア形成につなげるための「実践のツール」として活用されることが期待されています。
こうした背景のもと、本シンポジウムでは、「AI・DX時代に求められる人材を育成するために、日本語教育はどのように変わるべきか」という問いを軸に、教育の方向性や実践事例、教育モデルについて議論が行われました。
学びの中に「職場」を取り入れる
最初の講演では、NiX Educationインターン・就活支援担当の上運天宏子氏が、「実務環境を活用した教育アプローチ」をテーマに講演を行いました。
講演では、日本語教育・ITスキル教育・企業での実践経験を組み合わせたNiX Educationの教育モデルが紹介され、DX時代に求められる人材育成に向けた取り組みが説明されました。
また、インターンシップの実施状況を分析した結果から、企業と学生との対話の「質」と「頻度」が、学生の主体性や学習意欲、さらにはキャリア形成に大きな影響を与えることが報告されました。
さらに、二つのインターンシップ支援モデルを比較した結果、企業と学生がキャリア目標を共有し、継続的なフィードバックや1対1のサポートを行いながら成長を支える「伴走型支援」の有効性が示されました。
このような支援を通じて、学生は主体的に考え行動する力を身につけ、日本語によるコミュニケーション能力を高めるとともに、企業で長く活躍したいという意識も高まることが確認されました。
講演の最後には、企業と教育機関が連携し、実践的な学習環境を共同で設計するとともに、教育段階から継続的な対話と支援を行うことが、AI・DX時代に対応できる人材育成につながるとの提言が示されました。
本講演は、教育と実務を切り離して考えるのではなく、学習段階から実際の仕事につながる経験を取り入れることの重要性を示すものでした。そして、「日本語教育は、これからどのような能力を育成していくべきなのか」という、本シンポジウム全体を貫くテーマへと議論をつなげました。

写真3:NiX Educationの上運天宏子氏による講演
言語能力からキャリアにつながる力へ
続く講演では、社会や働く環境が大きく変化する中で、日本語教育が目指すべき姿について、さらに議論が深められました。
「キャリア形成と日本語教育」をテーマに講演を行った創価大学 文学部副学部長で、日本語教育を専門とする神村初美教授は、これからの日本語教育は、単に言語能力の向上を目指すだけではなく、学習者が実社会で学び、働き、キャリアを築いていくために必要な力を育成することが重要であると述べました。
神村教授は、変化の激しい現代社会においては、知識を一方的に習得するだけではなく、主体的に行動する力、協働する力、そして課題を発見し解決する力を育成することが重要であると指摘しました。
その実現に向けて、Project-Based Learning(PBL)、Content and Language Integrated Learning(CLIL)、Content-Based Instruction(CBI)を組み合わせた教育アプローチを示し、日本語を専門知識の習得や実践的な課題解決のための「ツール」として活用することで、学習者が段階的にキャリア形成につながる力を身につけていく教育の方向性を示しました。
講演を通して一貫して示されたのは、「言語を学ぶ」ことから、「言語を通して必要な力を育てる」ことへの転換という考え方です。
この理念は、NiX Educationが推進する教育モデルの基盤でもあり、日本語能力の向上にとどまらず、AI・DX時代の実社会で活躍できる人材の育成を目指すものです。
そして、この考え方は、続いて行われたNiX Educationの実践報告において、具体的な教育実践として示されました。

写真4:創価大学の神村初美教授による講演
教育機関と企業がともに築く、これからの人材育成
こうした教育の方向性については、続くパネルディスカッション「日本語教育はどのように実務と接続されるべきか」において、教育機関・企業それぞれの立場から活発な議論が行われました。
これまでの講演では、実践的な学習環境の重要性や、キャリア形成につながる力を育成する日本語教育のあり方が示されました。パネルディスカッションでは、その考え方をさらに発展させ、教育機関・企業・学習者がどのように連携しながら人材育成を進めていくべきかという視点から意見が交わされました。
パネルディスカッションには、NiX Education執行役員・日本語教育事業総括グエン・ティ・マイ・フォン氏、NiX Education代表取締役のグエン・チョン・ギア氏、創価大学の神村初美教授、ネクスキャット株式会社代表取締役の千歳紘史氏、株式会社アルティマ代表取締役の林田尚登氏、DSTソリューション株式会社取締役のチャン・ゴック・ソン氏が登壇しました。
教育機関と企業、それぞれの実践経験をもとに、AI・DX時代に求められる人材育成のあり方や、教育と企業が連携して人材を育成するための取り組みについて意見が交わされました。
議論では、人材育成において重要なのは、専門知識や日本語能力だけではなく、明確なキャリア目標を持ち、企業・教育機関・学習者が継続的に関わり合いながら、実践的な学習環境の中で成長を支えることであるという認識が共有されました。
また、AIの活用が急速に進む時代だからこそ、人が果たす役割はますます重要になることも強調されました。学習者の主体性を育み、学ぶ意欲を引き出し、生涯にわたって学び続ける力を支えていくことが、これからの人材育成に欠かせない要素であるとの考えが示されました。

写真5:午前のパネルディスカッションの様子
教育の方向性を実践へ ― NiX Educationの取り組み
午前のセッションでは、「日本語教育はどのように実務と接続されるべきか」というテーマについて、多角的な議論が行われました。
午後の発表では、その考え方を教育現場でどのように実践しているのかを共有するため、NiX Educationハノイ拠点とNiX Educationダナン拠点による実践報告が行われました。
各拠点からは、プログラムや教材の設計、学習者に提供する学習経験、そして企業で求められる実務能力の育成に向けた取り組みについて報告されました。
実践を通して教材・授業を改善する取り組み
最初の発表では、NiX Educationハノイ拠点より、IT日本語教育プログラムにおける『IT業務』教材の授業実践と教育効果について報告が行われました。
発表では、『IT業務』教材を活用した授業設計や、TBLT(Task-Based Language Teaching)およびCLIL(Content and Language Integrated Learning)を取り入れた教育実践について説明されました。
また、インターンシップや就業を経験した学習者へのアンケート調査を通して、教室で学んだ内容が企業現場でどのように活用されているかについて検証した結果が報告されました。
その結果、日本語を実際の業務を想定した課題の中で学ぶことにより、企業で必要とされるコミュニケーション能力や主体性が高まり、インターンシップや就業場面においても学習内容が効果的に活用されていることが確認されました。
さらに、本発表では教育効果を検証するだけではなく、その結果を教材開発や授業改善へ還元し、企業で活躍できるIT人材の育成につなげていく取り組みについても報告されました。
TBLTとCLILを取り入れた授業設計を通して、学習者が単に語彙や文型を習得するだけではなく、日本語を専門的な課題遂行のために活用できる力を育成することを目指した教育実践が示されました。
また、アンケート調査からは、学習内容が企業現場で活用されることで、学習者の自信や主体的な行動につながっていることも確認されました。さらに、インターンシップや就業場面において、自信を持って行動できるようになった学習者の変化も報告されました。
本発表では、教育プログラムの内容だけではなく、教育実践を継続的に改善していく仕組みについても共有されました。学習者やインターンシップ経験者、企業からのフィードバックをもとに、教材・授業設計・学習活動の改善を重ねることで、「教材開発・授業実践・教育効果の検証・改善」という循環を構築し、企業で活躍できるIT人材の育成につなげていくことの重要性が示されました。

写真6:NiX Educationハノイ拠点による実践報告
Project-Based Learning(PBL)を通じて仕事を教室へ
続いて、NiX Educationダナン拠点より、「PBLによる統合的スキル育成 ― IT専攻学習者の就職・実務接続を目指した日本語教育実践と効果 ―」をテーマとした実践報告が行われました。
本発表では、NiX Educationが目指す教育理念を、具体的な授業実践としてどのように実現しているかについて説明されました。
企業では、ITの専門知識や日本語能力に加え、コミュニケーション能力、課題解決能力、チームで協働する力がますます重視されています。
こうした背景を踏まえ、NiX Educationでは、PBL(Project-Based Learning)を取り入れたカリキュラムを構築し、日本語を学ぶだけではなく、日本語を使って仕事を進める学習環境を設計している点が示されました。
学習者は、実際の業務を想定したプロジェクトを通して、日本語を実践的なツールとして活用しながら学習を進めます。
授業では、日本語による話し合い、計画立案、報告、課題解決などの活動を通して、学習者はチームで協働する力や職業意識を身につけ、企業で求められる実務能力を段階的に育成しています。
アンケート結果や企業からの評価からも、PBLは日本語能力の向上だけではなく、教室での学びと就職・実務との接続を深め、学習者がインターンシップや就職活動に自信を持って臨むことにつながっていることが確認されました。
さらに発表では、教育実践の成果だけではなく、今後の課題についても共有されました。企業や学習者からのフィードバックを踏まえ、教材やカリキュラムを継続的に改善し、AI・DX時代に求められるIT人材の育成に向けて、教育モデルをさらに発展させていく方向性が示されました。

写真7:NiX Educationダナン拠点による実践報告
教育設計から職業能力の育成へ
それぞれ異なる視点から行われた2つの実践報告でしたが、共通して示されたのは、「日本語は学ぶ対象ではなく、学び・仕事・キャリア形成を支えるツールである」というNiX Educationの一貫した教育理念でした。
NiX Educationハノイ拠点の発表では、『IT業務』教材とTBLT・CLILを取り入れた教育設計の実践と、その教育効果をインターンシップや就業経験者への調査を通して検証し、現場からのフィードバックを教材・授業改善へつなげる取り組みが紹介されました。一方、NiX Educationダナン拠点の発表では、PBLを通して、学習者が日本語を使いながら実際の仕事を想定したプロジェクトに取り組み、就職・実務へとつながる力を育成する実践が紹介されました。
この2つの実践は、教育設計、授業実践、企業現場での経験、評価、改善を一つの循環として捉える教育モデルを示すものでした。
これは、グローバルな職場で活躍できる人材育成を目指すNiX Educationの取り組みを具体化するものとなりました。
両拠点の実践に共通していたのは、「日本語を教える」ことから、「日本語を使って仕事を進める」ことへと教育の視点を転換している点です。このような実践を通して、教室での学びと企業現場との距離を縮め、学習者が将来のキャリアにつながる力を段階的に身につけられる教育が実践されていることが示されました。
企業の視点から:DX人材に求められるもの
これまで紹介された実践報告では、教育現場において、実務との接続を意識した日本語教育がどのように実践されているかが紹介されました。では、企業の視点から見ると、日本語を使って働く人材にはどのような力が求められるのでしょうか。
続いて、ネクスキャット株式会社経営企画担当の岩舘由香氏による講演が行われました。
実習生の受け入れや外国人材との協働に携わってきた経験をもとに、岩舘氏は、日本企業がDX人材に期待する資質や能力について紹介しました。
同氏は、日本語能力とは、語彙や文法の正確さだけを指すものではなく、「質問する」「確認する」「報告する」「対話する」といった行動を通して、相互理解を築く力が重要であると述べました。こうした力は、業務上のミスを減らし、円滑な協働や信頼関係の構築につながる重要な要素であると説明しました。
さらに、企業側にも、分かりやすい言葉で伝えられる職場環境を整え、社員が安心して質問や確認、相談ができる環境づくりが求められると紹介しました。
講演では、「完璧な日本語を話せる人材」ではなく、「対話し、確認し、協働しながら仕事を進められる人材」が、これからのDX人材として重要であるというメッセージが示されました。

写真8:ネクスキャット株式会社の岩舘由香氏による講演
言語から職能へ――これからの日本語教育に求められるもの
これまで紹介された教育実践や企業の視点を踏まえ、最後のパネルディスカッションでは、本シンポジウムを通して議論されてきたテーマである、「日本語力を、仕事で価値を生み出す職能へどのようにつなげていくか」について意見交換が行われました。
「言語から職能へ―実践応用の現状と今後の展望―」をテーマとしたパネルディスカッションには、NiX Educationダナン拠点長のグエン・ティ・カム・ハ氏、NiX Educationハノイ拠点長のグエン・ティ・カイン・フエン氏、創価大学の神村初美教授、ネクスキャット株式会社経営企画担当の岩舘由香氏、株式会社xR&Dテクノロジーの松田 朋也氏が登壇しました。
午前のパネルディスカッションでは、日本語教育を実務とどのように接続するかについて議論が行われました。
一方、本セッションでは、その議論をさらに発展させ、「言語から職能へ」という視点のもと、日本語教育を実務へどのように接続し、仕事で価値を生み出す力を育成していくかについて、現在の取り組みと今後の展望を踏まえながら意見が交わされました。
教育現場での実践や企業での取り組みを踏まえながら、学習者の職能を高めるための方向性について、多角的な議論が行われました。
NiX Educationからは、実際の業務で使用される資料を読む力や、Slack・Microsoft Teamsなどのツールを活用した日本語によるコミュニケーション能力を育成していく必要性が示されました。
また、グループ間でのクロスQ&Aや個別での口頭試問などを取り入れ、プロジェクト全体を理解し、自分の言葉で説明できる力を育成することの重要性についても共有されました。
さらに、教育段階から企業との連携を深めることの重要性が示されました。
学生が企業担当者へ日本語で成果を報告し、質問や意見交換を行う機会を増やすことが、「伝わる日本語」と「仕事で使える日本語」の習得につながる取り組みとして共有されました。
企業の視点からは、日本語教育の価値は語学力そのものだけではなく、相手の意図を理解する力、信頼関係を築く力、企業文化に適応する力、そしてチームで協働する力を育成することにあるという考えが共有されました。
また、多文化・多国籍のメンバーが自然に協働できる組織づくりに向けて、グローバルコミュニケーションの推進や若手リーダーの育成をさらに進めていくことが、今後の重要な取り組みとして示されました。

写真9:午後のパネルディスカッションの様子
今日のつながりが、未来のDX人材を育てる
シンポジウムは盛況のうちに終了しましたが、一日を通して交わされた議論は、AI・DX時代における日本語教育の新たな方向性を示すものとなりました。日本語は、もはや単に学ぶ対象ではなく、専門知識を学び、仕事を進め、人と協働し、グローバルな環境でキャリアを築くためのツールとして位置づけられています。
本シンポジウムの冒頭で提起された、「日本語を仕事や協働、そして成長のためのツールとして活用できる人材を、どのように育成していくのか」という問いに対し、教育実践、企業の視点、そしてパネルディスカッションを通して、一つの方向性が示されました。
それは、日本語教育を専門分野の学び、実務経験、そして企業との連携につなげることで、学習者が日本語力を「職能」へと発展させ、仕事の現場で価値を生み出せる人材を育成していくことです。
NiX Educationは、今後もこの理念のもと、日本語教育を通じたDX人材育成に取り組み、学習者・教育機関・企業をつなぐ教育モデルの発展を目指してまいります。
シンポジウムRecap動画
後日更新予定
NiX Educationについて
株式会社NiX Educationは、ベトナム全国における情報通信技術大学と提携し、専門的な教育と並行して、日本語および国際水準のスキルを提供する会社です。卒業後すぐに日本企業で働く能力を持つ、実践的なスキルを備えたIT学生の世代を育成しています。
Website: http://www.nix.edu.vn/
Facebook: https://www.facebook.com/nix.edu.vn/
[Hanoi Campus] https://www.facebook.com/GJIT.nix.pdu
[DaNang Campus] https://www.facebook.com/gjit.nix.vku
